町田・相模原|不登校の高校生のための通信制高校「精華学園町田校」校長ブログ

不登校その後の進路①自己主張しない生徒が正社員になって人前に

time 2016/10/03

関わり方が分からない

精華学園高等学校には「不登校」がきっかけで入学する生徒が多くいます。その生徒は非常におとなしい子で最初の頃は周囲も関わり方が分からずに困ることがよくありました。精華学園高等学校の生徒の多くは自分自身が辛い経験をしたことがあるので、その生徒にどうやって話しかけたら良いか何人かの生徒が先生に相談に来たほどでした。

「先生、◯◯君は何の話が好きなんだろう?」

最初のうちは教員も彼の思い、好みを推し量れずにいました。もちろんご家族も含めて、誰も彼の本当の心を聞いたことがありませんでした。

カウンセリングじゃないカウンセリング

「カウンセリングの先生は本気で関わってくれないし、解決できない」生徒がカウンセリングに対してよく口にする言葉です。確かにカウンセラーの先生は学校の中でも力があるわけでもない立場ですから、生徒の信頼に応えることが難しいことはあるかもしれません。精華学園高等学校でのカウンセリングはカウンセリングとは呼べない形で始まりました。雑談をして、雑談をして、友達の代わりをするように関わりながら、彼の強み、特性を徐々に引き出していきました。彼自身も「生涯でこれほど話をしたことがない」くらいよく話をしました。そして、彼の姿がだんだん見えてきました。

本人の意思と周囲の見立てのズレ

おとなしい彼の姿を見て、多くの教員や関係者は「人と接する仕事は向いていない」と判断していました。ところがカウンセリングを続けるうちに彼が実は人と関わりたいことが見えてきました。彼がおとなしいのは人が嫌いなのではなく、今まで関わった人間関係の中では彼が話をするチャンスや話したいと思える環境がなかったのだと言います。私たちはその見立て違いを反省しつつ、彼が「介護」をやりたいということを知りました。

具体的な協力者 その1

卒業して、進学して介護の資格を取ることも選択肢の中にありましたが、彼は進学ではなく、就職したいという希望を強く持っていました。そこで精華学園高等学校の関係者や支援者(数百人います)の力を借りて、より彼の希望に近い解決策を探しました。そんな時に介護の訓練をしている学校の代表と縁ができました。その代表は生徒の話を聞いて、快く協力してくれました。それからは高校に通いながら、彼の性格、経歴、思いを理解してくれている人が代表を務める学校で介護の勉強をして、資格を取得しました。

精華学園高等学校 町田校の最大の特徴は数百人の社会人の支援があることです。環境保護の仕事の人からスポーツ選手、人材派遣会社、医者、会社経営者、NGOの職員など様々な人が生徒を温かい目で見守っています。社会の制度としてつながるのではなく、人と人が手を取り合いながら「生徒」を大事に育てていく仕組みが、特に不登校経験の生徒を未来につなぐ役割を果たしています。

具体的な協力者 その2

その生徒が介護の仕事を学び始めてしばらくした頃、同じ介護の学校で学んでいる人から「うちの施設でアルバイトしてみないか?」という誘いがありました。縁が縁を呼び、彼はいわゆる就職活動をすることなく、アルバイト先を見つけました。念願の介護の仕事ということもあって、彼は在学中から熱心に仕事を覚えていきました。周囲の大人がバトンをつないでいく。それが制度の繋がりではなく、彼への理解に基づいたエールであることもとても大事なことだと思います。そして、これらのエピソードの背後には上記で出てきたカウンセラーの継続的なサポートもありました。

正社員と自信の目覚め

精華学園高等学校を卒業後、彼は正社員になりました。責任あるポジション、人に業務を教える立場になり、彼の目の輝きが変わりました。正社員であるという自覚と自信。最初に会った頃のおとなしいイメージは全く無くなっていました。彼はこの職場で自分を見つけたようでした。

後輩に渡したい「未来」のバトン

精華学園高等学校のもう一つの特徴は先輩後輩の繋がりです。彼は自分が正社員として、ようやく自分らしい生き方を始めることができたことを多くの後輩に伝えたいと考えました。昔の彼ならわざわざ母校に交渉をして、講義をさせて欲しいとは言わなかったと思います。精華学園高等学校にはモチベーション教育と呼ばれる「社会人」が「在校生」に素敵な生き方を見せる授業があります。彼はみずから立候補して、その講師として母校で講義をします。それだけでなく、多くの大人の応援を取り付けるために大人が40名ほど集まる教室でも立派にスピーチをこなしました。その会場にはこれまで彼を支えてきた、彼と関わってきた大人も参加していました。一様に目に涙を浮かべながら「良かった」「見違えるようだ」「頼もしくなってくれて嬉しい」と大人たちは彼の姿を見守っていました。

カリキュラムをただただこなしてもらう教育、成績を上げるだけの教育ができないこと。それは自分の人生を思い描き、在学中から社会人と関わり、実行し、工夫し、汗をかくこと。子どもたちはこれから社会で強く生きていきます。それに近い教育をしないのは大人の怠慢だと私たちは考えます。子どもたちが「あんな大人になりたいな」と思ってもらう努力をしないのも大人の怠慢ではないでしょうか?「格差」が激しい世の中になっていく日本において、希望を見せられる大人とともに育った子どもとシステマチックで夢のない大人に囲まれて育った子どもの違いは歴然としていると私は思います。

校長をしていて嬉しいこと。それはみずからの人生を輝かせる映画のような場面にであうこと。機械的な人生をおくることをやめ、命を輝かせることを一生懸命にできる大人が子どもたちに見せた背中が子どもの成長という形で返ってくる。これを願わない親はあまりいないのではないかと思います。親が一生懸命に生きている。これが子どもの力になる。親が一生懸命に輝いている。この姿が子どもの力になります。制度のうまく利用して乗り切っても子どもは「生きる力」を得ることはできません。彼のような次の世代に背中を見せられる大人がたくさんいる社会を作っていきたいと彼のスピーチを聞いていて強く思いました。

やる気引き出すモチベーション教育

プロフィール

椎名雄一(心理カウンセラー)

椎名雄一(心理カウンセラー)

初めまして。椎名雄一です。 多くの大人が問題を先送りしようとします。今、解決しなければ、子どもはより困難な未来を乗り越えなくてはなりません。 [詳細]